東京大学史料編纂所

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正倉院文書調査

 昭和四十八年十月二十二日から二十七日までの六日間、例年の如く奈良市正倉院事務所に出張し、正倉院文書の原本調査を行なった。
 この種の調査は、現在、続修正倉院文書を中心として進行中であるが、正倉院文書はこれまでにその内容の大概は紹介済であるものの、各紙の形状・寸法や界線の状態等の外形調査は殆ど全く行われておらず、記録も採られていないし、表裏文書の対照も不完全である。また内容についても、同文書は整理の結果として多数の断簡を幅約十糎の白紙で撃いだ形で卷子に仕立ててあるが、各断簡の紙背に記されている写経所文書の両端それぞれ二糎幅程の部分の文字は、この白紙の下に隠されて写真にも写らず、大日本古文書にも洩れているものも少くない。
 現在の調査は主として以上のような点に留意しつつ進められているが、更に複雑極まる断簡の接続の問題もあり、正集から続々修に至る七百卷に近い諸卷の中から、関連する断簡を含む諸卷を抽出して接続の状況を検討することにも多くの時間を割いている。(稲垣泰彦・菊地勇次郎・土田直鎮・皆川完一・鈴木茂男)


『東京大学史料編纂所報』第9号p.152